いろんなはなし

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三体のはなし

本を読むのは昔から好きだった。

幼稚園の時点で小学生向けの本をせがんで買ってもらい、小学生の頃にテイルズオブシリーズのノベルを読み尽くし(当時発売分)、中学生はラノベを読み漁り、高校生からは有川浩あさのあつこ村山由佳宮部みゆき、大学生になって森見登美彦上橋菜穂子東野圭吾小野不由美、、、と順当に読書を楽しんでいた。

基本的には恋愛小説、青春小説、純文学あたりを好んで読んでいたが、ファンタジーも好きで、ある日突然「SF読めたらかっこいいな……」と思い立ち、大学生の長期休みに坂の上の図書館まで歩いていって『夏への扉』を借りて読んだ。残念ながら初めてのSFどころか初めて(?)の翻訳物で、読了するのにとても骨が折れた。内容は正直あまり覚えていないし、おもしろさがわからないくらい読みにくさだけが印象に残っている。

SFはあまり向いてないかもしれないけど、ミステリに手を出してみようと思い立ち、母の見立てで読んだ本がバラバラ腐乱死体でしばらくみすてはアガサ・クリスティしか読めなかったのはまた別の機会に書くとして。

大学を卒業するか、大学院に進学したか、そのあたりのころ。河原町の本屋の地下で1冊の小説を母に買ってもらった。小川一水『天涯の砦』。この1冊がわたしにSFのおもしろさを教えてくれた。そのあと小川一水の短編を何冊か読んだ後、友人のすすめで小川一水の『天冥の標』シリーズを読み始めた。このシリーズはわたしの人生を変えるほどおもしろく、なんども読み返してその世界に浸った。天冥の標が完結したあと、ロスで世界各国の古典SFを読み漁り、すっかりSF好きに仕上がったタイミングで、三体に出会ってしまった。

 

Amazonでやたらとレビューの多い中華SF、というのが初めの印象だった。電子書籍派なのでボリュームがよくわからずなんか高い、シリーズが続いているのでそれなりの出費になり、おもしろくなかったら悔しいな、、、と手を出さずに数年が立っていた。ある日、久々に会う友人たちと読書トークになり、ついに「三体、めっちゃおもろい」という人間に出会ってしまったのである。

読書家の信頼出来る友人からの薦めというものはたいへんありがたい。本は星の数ほど出版されており、自分で選ぶのはとても難しい。結局同じ作者の本ばかりを読んでしまい、なかなか広がらない。かといって適当に目に付いたものを買ってしまうと、こんなものに時間も金もかけなくてよかったな、、、と後悔することもある。友人の薦めであれば、ある程度の質は保証されるし、なにより友人と本の内容について語り合うことができる。周りに本を読む人間は少なく、面白い本を読んでも1人でもんもんと思いをめぐらせるしかできないことも多い。

ゴールデンウィークに三体を読んでいる途中という友人と話し、わたしは代わりに天冥の標を薦めた。居酒屋から出て駅の改札で解散し、ちょうどKindleでキャンペーンをしていたので帰り道の電車内で三体を購入した。

と、いうのがわたしと三体の出会いである。おたくなので1度読み始めたシリーズは全て完走したく、公式同人誌X、前日譚と言うにはややズレている気がする0も読破した。

 

個人的には、手を出すか悩んでる人には三体0を読んでみて、文体やら雰囲気やらこの作者と訳者いけるなとおもったら三体、三体Ⅱ黒暗森林を読んで欲しい。黒暗森林がまじでおもしろいので黒暗森林を楽しむためだけでもいいから三体を読んでくれ。死神永生は風呂敷を限界まで広げるゴリッゴリのSFなので、そういうのが苦手な人は読まなくてもいい、、、、かもしれないけど、黒暗森林読了後にこの続きがあると知っていて手を出さないのはむりむり。Xは、、、、、死神永生に散らばった謎を、別人が妄想して作ってるのでも解説して欲しいなら読んでもいいけど、死神永生の余韻に浸ってそのままおしまいで良いと思う。

 

以下、ネタバレあり。

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★三体

中国の小説は水滸伝ぶり(?)だな〜と思いながら開いたら、なんと文革文化大革命。理系として人生を歩んでいることを言い訳にするけども、恥ずかしながら全く何かわからなくて、いきなり詰まった。昼休みに読書をするのだが、文革がわからなすぎてその日家で文化大革命Wikipediaを読んだくらいには近代の歴史がわからない。SFに対してわたしは「わかりたい」という気持ちが少し大きい。くだらない理系のプライドでしかないが、専門分野に近い生物学系のフィクションはやはりとても楽しめるし、科学的な話をそれなりに解像度高く楽しみたい欲がある。地学や物理は専門外なので、なんとなくの楽しみ方しかできず、もっときちんと勉強しておけばよかったなと未だに思うことがある。三体と言うよりこの作者の作品全般的に物理をテーマにしている部分が多く、物理への憧れが久びさに焦げ付きそうになった。とにかく科学に対して心構えをしていたら、近代史にぶん殴られて出鼻をくじかれたのが印象的だった。また、内容的にSF要素がそこまで濃くないので、中国というものを感じつつ、ゲーム三体の謎、社会の動き、恐ろしい作戦、、、などふつうに楽しんで読んだあとのラストで虫けら!?!?!?となって人類滅亡フラグが立ったところで終わり、「これで終わり!?!?」となった。葉文潔の人生で振り積もったたくさんの絶望と失望と、人類の落日の儚い美しさがなんとも切なかった。

 

★三体Ⅱ 黒暗森林

シリーズで一番好き。めちゃくちゃおもしろかった。面壁者なんて解決できるルートなんもないじゃんって思って読んでたのに、ラストのあの見事などんでん返し。初めのは葉文潔とのお墓のシーンと、ラストもお墓に転がって、どちらも続きが気になるのに蟻がうろうろする描写が緊張を高めていくという対比がよい。今回は未来都市が出たり、宇宙艦隊戦闘が起こったり、謎文明のオーバーテクノロジーが出たりとSFの醍醐味を一通り味わえる王道SFの要素に、ミステリかというくらい初めのフラグをラストで回収する見事さ、主人公羅輯の読者を騙す狂乱ぶり、すべてに鳥肌が立って止まらんかった。読了後の興奮は前巻とは比べ物にならず、読み終わって直ぐに友人に連絡したし、関係ない友人知人にも無意味に「今、中国のSF読んでて……」と話しかけた気もする。

 

★三体Ⅲ 死神永生

正直Ⅱのラストの出来が良すぎて、蛇足じゃん。。のつもりで読み始めた。冒頭の話が結局なんだったのかよく分からんのだけど、X以外でフォローあったっけ???心優しく年若い程心が主人公で、そういう意味ではⅡ以前よりも読みやすさはあった。時代がある程度Ⅱと被っていた前半はおもしろさはありつつも先がわかっていたので物足りないところも若干あった。Ⅱ以降の世界線以降については程心の行動がわりと信じられないことがちらほら出てきて、「な、な、なんで〜!?!?」とおもいながら読んでいた。とても優しい気持ちで人類を滅ぼす選択を選び続けるの、えぐい。終盤は本当に「ええー!?!?なんで!?!?!?だめなの!?!?」と混乱するくらいハッピーエンド回避力が高くてほんとうにびっくりした。びっくりしたうちに読み終わってた。なんでわざわじそこで引き離すのかが理解できなかったけど、シリーズの中でも本当に発想力がすごいというか、何食ってたらそんなこと思いつくんだってくらいスケールがでかいSFをかまし続けてくれたので、本当に読んでよかったなと思った。でも三体人の正体とか、知りたいことがばらまかれたまま終わってしまったので、消化不良感は否めない。

 

★三体X 観想之宙

読むかぎりぎりまで悩んだ公式同人誌。三体本編でばら撒かれたままの謎をいい感じに回収してまとめている、との評判で三体Ⅲ読了後にロスを埋めるために購入した。翻訳ものだし、文体とか気にせず読めるかな、、、と思ったものの、やはりどうしても作者出ない人が書いているということがずっと頭の隅に引っかかってしまった。なんか、訳者が同じはずなのに、な〜んか妙にラノベくさいというか。キャラがぺらぺら心情を吐露しすぎというか。ハードSFだったはずがスペースファンタジーラノベになったというか。三体本編で気になったけど有耶無耶になって終わった部分に綺麗に説明はつけられていたと思うけども、わたしの中で「二次創作で本編にない設定を作らない」という暗黙の了解があり、それをばちばちに冒しているのが許し難いというか。どうしても素直に楽しめなかった。三体でキャラもっと!みたいに思ったこともあるはずなのに、これはキャラが出すぎてて偽物だと感じてしまった。ただ、本当に気持ちよく読み終わることができるような本編の説明としては優秀だった。でも本当の作者が書いたらこうはならないんだよ〜!!!という思いが消しきれなかった。三体ではない違う話で、ラノベノリのSFとして出会えていたらなぁという作家、、、出会いが悪かった。

 

★三体0 球状閃電

三体とうす〜く繋がってる同じ作者の過去作をタイトルに三体をつけて、というあれ。三体かと言ったら全然三体ではないけれど、普通に面白かった。三体よりもこっちの方が取っ付きやすくて読みやすいのでは。宇宙がどうとかではなく、物理法則の方のSF。スケールでかいトンデモ世界線ではあるけれど、舞台が現代(というにはちょっと昔?ぽいけど)で入りやすい。ヒロインもとても危うくて魅力的で、結末も幻想的で切なくて読んでよかった。

 

総じて圧倒的な発送とスケール、ヒロインの描写が妙に魅力的、容赦のない展開で、話題になるだけの作品だった。また最初から読み返したら、違う楽しみ方ができそう。